2025年8月の読書録

みみみ!の本棚
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こんにちは、みみみ!です。

2025年8月の読書録の紹介です。今月は、先月に引き続き佐原ひかりさんの本と好きな作家さんである住野よるさん、伊坂幸太郎さんの本を読みました。

ではさっそくどうぞ~!

ペーパーリリィ

  • タイトル:ペーパー・リリィ
  • 著者:佐原 ひかり
あらすじ

野中杏、17歳、結婚詐欺師の叔父に育てられている高校2年生。
夏休みの朝、叔父に300万円をだまし取られた女性キヨエが家にやって来た。
キヨエに返してやりたい、人生を変える何かをしてあげたい。
だってあたしは「詐欺師のこども」だから。

家から500万円を持ち出し、杏はキヨエと一週間限定の旅に出る。
目指すは幻の百合!

(河出書房新社HPより)

感想

結婚詐欺師の叔父と暮らしている17歳の杏×その被害者38歳キヨエという、何とも不思議な組み合わせの2人が、叔父への仕返し(?)として叔父がかつて見た幻の百合を目指して旅をするお話。

旅の始まりからしてそうなのですが、とにかく杏は”勢い”で行動しがちでその勢いのまま一気に駆け抜けてしまう物語でした。

終始、杏の視点を通して語られるからかもしれませんが、各登場人物の悩み等も非常にポップに描かれており、テンポよく読み進めることができました。

ただ、最後には「そうきたか!」という結末になっていて、読後も非常に爽快で楽しかったです。

以下、ネタバレありのためご注意ください。

外見が整っていて物怖じしない17歳の杏と、ぱっとしない卑屈な38歳のキヨエという、妙な組み合わせの2人。

私はどちらかというとキヨエに感情移入しながら読み進めていった。「サービスエリアでの食事のメニュー」や「トイレの個室」でさえも自分の選択に『ババを引いた』と感じてしまうキヨエのみみっちさ、分かるぞ!その気持ち!!なんだか自分が選ぶものがことごとく価値が落ちてしまうような感じ(笑)

それ以外にも趣味と言えるものがパチンコだったりと、いろいろ残念なキヨエ。道中で出会う、自分に正直に自由に生きるおばあちゃんである『えなっちゃん』や別荘まで持っているお金持ちの『ヨータ』と比べても、やっぱりパッとしない印象が拭えない。

(えなっちゃんはお金を盗もうとするし、ヨータも性の悩みを抱えているわけだけど、キヨエのようなどんより感は少ない)

最終的には目的地で神秘的な光景を見て、物語(旅)の終わりを迎える。ただし最後に明かされるキヨエの『嘘』から、この本が単なるドタバタ劇ではなくメッセージのあるものとして昇華されたように思う。

そのテーマは『ほんものとうそもの』。キヨエが残念な女性であることはきっと変わらないでしょうが(笑)杏を騙し切る程度のしたたかさを持っていたり、えなっちゃんと過ごした楽しい時間はあるけれどしれっと裏切ったり、そういうグラデーションのあるものとして描かれているのではないか。

それと同時に、ヨータにとって『本物』である自然の星空が杏には『嘘くさく』、杏にとっての星空であるプラネタリウムはヨータには『人工のにせもの』であるように、人によって『ほんもの』と『うそもの』なんて変わってしまう曖昧なものかもしれないとも感じる。

読了後に調べてみると、本著は映画『ペーパー・ムーン』のオマージュとのこと。境遇的なものもそうだが、『うそもの』の親子の『ほんもの』の絆のお話なのかな。映画は全然見ないので、不勉強でお恥ずかしいですが今後見てみようと思います。本著を面白いと感じた方も是非見てみましょう。

1930年代のアメリカ中西部。聖書を売りつけて小金を稼いでいる詐欺師モーゼは、交通事故で亡くなった知人女性の娘アディを、遠く離れた親戚の家まで送り届けるよう依頼される。嫌々ながらも引き受けるモーゼだったが、大人顔負けに賢いアディはいつしか彼の詐欺の片棒を担ぐようになり、2人は父娘のような絆で結ばれていく。

ペーパー・ムーン : 作品情報・キャスト・あらすじ - 映画.com
ペーパー・ムーンの作品情報。上映スケジュール、キャスト、あらすじ、映画レビュー、予告動画。母親を亡くした少女と詐欺師の男が織り成す旅を、ライアン・オニールとテイタム・オニールの父娘共演で描いたロードムービ...

恋とそれとあと全部

  • タイトル:恋とそれとあと全部
  • 著者:住野よる
あらすじ

片想い男子とちょっと気にしすぎな女子。二人は友達だけど、違う生き物。
一緒に過ごす、夏の特別な四日間。

めえめえ(瀬戸洋平)は下宿仲間でクラスメイトの女子サブレ(鳩代司)に片想いをしている。
告白もしていないし、夏休みでしばらく会えないと思っていた。そのサブレが目の前にいる。
サブレは夏休み中に遠方にあるじいちゃんの家に行くのだが、それはある〝不謹慎な〟目的のためだった。

「じゃあ一緒に行く?」
「うん」

思いがけず誘われためえめえは、部活の休みを利用してサブレと共にじいちゃんの家を目指す。
夜行バスに乗って、二人の〝不謹慎な〟そして特別な旅が始まる――。

恋という気持ちが存在する、この世界に生まれてしまった全てのあなたへ。

(文藝春秋BOOKS HPより)

感想

『君の膵臓をたべたい』で有名な住野よるさんの作品。

基本的に住野よるさんの本は読んでいると、むず痒くなるような(共感性羞恥?)感覚になり、それが好きなところでもあるのですが、ちょっと本作は難しいところがありました。

メインの部分がどうしても受け入れらないというか、少し残念でした。筆者もこういう意見があることは承知の上で書いているのでしょうが…。

以下、ネタバレありのためご注意ください。

ざっくりと言ってしまうと、あらすじの”不謹慎な”目的とは『自殺した親戚の家族に話を聞く』ことである。これがどうしても無理だった。

登場する主人公である瀬戸洋平(めえめえ)も鳩代司(サブレ)もキャラクターとしては嫌いじゃない。実際にいつもの住野よるさんの作品の良い意味でむず痒い感覚もあり、恋愛小説としては悪くないと感じる。

だから、その”不謹慎な”目的に何か切羽詰まった理由がストーリーとして存在していたり、作品として伝えたいメッセージがあるなら許容できたのに。

生きてることや、死ぬこととはっきり向き合った、命のエネルギーみたいなものを感じたい

(作中 サブレの台詞)

こんな理由で健康な高校生が自殺した親戚の家族に話を聞きに行くって、改めて冷静に考えたらサイコパスだと思う…。しかもこれを行うサブレは異常なくらい『気にしい』であるとされているが、本当に『気にしい』ならこんなことしません。

筆者も↓のようなコメントをされています…。(本当はメッセージがあって、私が読み取れていないだけならごめんなさい)

なんて言っておきながら、十作目『恋とそれとあと全部』はとても自分勝手な作品です。

ただただ、自分がきゅんきゅんする小説を書きてえ、という欲求に従い書き始めたものです。

結果として生まれたこの物語で、誰かの心臓を撃ち抜ければこんなに幸せなことはありません。教訓も主張も二の次です。

一番の願いは、小説を通じて読者さんと一緒に遊びたい。

(文藝春秋BOOKS HPより)

きゅんきゅんするための舞台装置なら、そんな攻めた賛否ありそうな設定避けたら良かったのにとは思いますね。

777 トリプルセブン

  • タイトル:777 トリプルセブン
  • 著者:伊坂 幸太郎
あらすじ

やることなすことツキに見放されている殺し屋・七尾。通称「天道虫」と呼ばれる彼が請け負ったのは、超高級ホテルの一室にプレゼントを届けるという「簡単かつ安全な仕事」のはずだった――。時を同じくして、そのホテルには驚異的な記憶力を備えた女性・紙野結花が身を潜めていた。彼女を狙って、非合法な裏の仕事を生業にする人間たちが集まってくる……。

そのホテルには、物騒な奴らが群れをなす!

(KADOKAWA HPより)

感想

『殺し屋シリーズ』の第四弾です。

続き物ではない?のでそれぞれ読んでも楽しめますが、同じ世界の同じ業界の話として繋がっているので「知っているとクスっとできる」のかなと思います。(私はAX以外は読んでいるはずですが、ほぼ忘れていました・・・)

物語としては殺し屋同士(といっても片方は分かりやすい悪)の戦いといったところでしょうか。様々な登場人物や場面転換がある群像劇ながら、非常に読みやすく流石の伊坂幸太郎さんです。伏線も多く散りばめられており、それらが回収され繋がっていくのも最高ですね。

以下、ネタバレありのためご注意ください。

まず冒頭にでてくる『スイスイ』というのは絶妙なワードだなあと思った。所謂、生まれつき見てくれが良い人物のことを『スイスイ人』と揶揄した言葉で、スイスイと人生を渡っていく様をユーモラスかつ的確に表している。

(余談だが、『スイスイ人』の反対は『アップアップ人』だろうか・・・とか考えたりした)

本著はウィントンパレスホテルを舞台に、『スイスイ人』(六人組、蓬実篤等)と『非スイスイ人』(七尾、紙野等)の対立を描いているが、『スイスイ人』側は分かりやすく他者を踏みつける悪として描写されている。

アクション的な要素も強く、紙野が逃げ切れるのかハラハラしながら楽しく読み進められた。勧善懲悪的な話であるので、万人受けもすると思う。

終盤まで私は乾を誤解していたので、ラストの展開は予想外で驚きもあったし、「そういえば伏線あったかも!」と悔しい想いもあった。改めて振り返ると、蓬と乾は対照的な存在として描かれていて、ともに印象操作をしているがその使い方が逆というのも因縁を表していているのだろう。

本著には沢山の伏線が散りばめられていて、読み終わった後に考察サイトをめぐるのも楽しみの1つかもしれない。私は読んでいる途中は縦読みのくだりくらいしか分からなかった…。

AX アックス

  • タイトル:AX アックス
  • 著者:伊坂 幸太郎
あらすじ

最強の殺し屋は――恐妻家。

物騒な奴がまた現れた!
物語の新たな可能性を切り開く、エンタテインメント小説の最高峰!

「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。
一人息子の克巳もあきれるほどだ。
兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。
引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。
こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。

(KADOKAWA HPより)

感想

『殺し屋シリーズ』の第三弾です。『777 トリプルセブン』を読んだ際に、『AX アックス』も読んでいないことに気が付き、すぐに読みました。

同じシリーズではあるものの、他の作品と比べると少々雰囲気が異なるというか、殺し屋であるものの『夫』であり『父親』である比重が高く、ホームドラマという印象です。

本人は超一流の殺し屋であるのに家では不器用な『兜』のギャップが非常に面白い作品で、短編の連作なので隙間時間に少しずつ読むのもおすすめです。

以下、ネタバレありのためご注意ください。

本人は真面目に頑張っているのに、どうしても報われない『兜』の日常をユーモラスに描いた話がメイン。

・AX

息子 克己の進路相談と『依頼』の日時が重なってしまい…という話。兜の殺し屋としての有能さと家での情けなさが描かれていて、いっきに物語に引き込まれれた。

・BEE

家の庭に蜂の巣ができて、それを兜が駆除する話。妻には自分でやらないよう止められるのだが…。人はスマートに駆除するのに、蜂の巣には奮闘する姿がもはやいとおしい。兜の家族への愛情が感じられる物語。

・Crayon

兜のパパ友、松田とのお話。恐妻家同士親しくなるが…。『妻の扱い方ノート』や『おにぎりはNGで魚肉ソーセージ』等、やけに具体的なエピソードで笑ってしまった。(まさか伊坂さんの実体験?笑)最終的には松田さんと離れ離れになってしまうことも報われない。

・EXIT

百貨店の警備、奈野村とのお話。ぱっとしない奈野村からのお願いをされたが、実は彼の正体は…。日常話がメインだったが、ここにきて殺し屋同士のお話に。お互い似たような境遇(殺し屋を引退したい)で一時はうやむやになったが、本章のラストで一週間後にビルから落下し兜は死亡してしまう。

・FINE

息子 克己視点でFINEから10年後の物語。その中で兜の最期、彼の残したものそして始まりが描かれている。私は兜というキャラクターが好きだったので死んでしまったことは悲しいけれど、兜は最期に『胸に温かい空気が満ちていく』とあるので自身は受け入れていたのかな。そしてボウガンの仕掛けは伏線となり、最終的には大切な家族を『医師』の手から守ることができたことも含めるとハッピーエンドなのだろう。

一番最後には、兜と妻の出会いが描かれている。なぜあの妻を受け入れているんだろうと感じていたが、なるほど兜は妻に救われて始まったのだと理解できた。あの瞬間こそが殺し屋だけでない、人間としての兜が生まれたときだったのかもしれない。

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